背景と目的

経済成長が続くアジア諸国において、拡大する所得格差や地域間の格差、環境問題、教育問題等の社会課題の解決に、従来の行政やビジネスだけではなく、非営利組織の役割が注目されて久しい。特に今日では、欧米においても米国では大統領府にOffice of Social Innovation and Civic Participation[1]が置かれ、EUにおいても社会政策の重要な柱となる[2]等、行政や非営利組織による社会課題の解決だけではなく、ビジネスを含めた主体により、社会システムやビジネス・モデル等の革新的なアプローチで社会課題を解決する手法が「社会イノベーション」と呼ばれ、主要な政策課題として議論されている。

 

日本においては、英語のInnovationは60年代に「技術革新」という訳語が充てられたが、今日では科学技術に限定せず、新しい社会システムや経済システムによる社会革新を「社会イノベーション」と呼び習わし、2008年には内閣府経済社会研究所が研究プロジェクト[3]を立ち上げる等、非営利セクターが単体ではなく、行政や企業といったステークホルダーと協働し、シナジーを追求することで新しい社会的な価値、ビジネス・モデル、社会経済上の制度を生み出すことで、こうした社会課題を解決するシステム的アプローチが問われている。その中でも、どのようにセクターや国家を超えた知のプラットフォームや生態系(エコシステム)を形成するかが、社会イノベーションの加速度的な推進のための議論の焦点とされている。

 

トヨタ財団においても、2015年からアジアの非営利セクターのプラットフォーム構築のための事業を推進しており、準備会合を経て、2016年1月には第1回目の国際会議が東京で開催される予定である。この取り組みは、これまで地理的・社会的制約により協働の機会を持たなかったアジアの非営利セクターを主導する財団や中間支援組織が一同に会し、共通の社会課題とそれに対する潜在的な協働機会を議論するという意味では、アジアにおける社会イノベーション促進のための、重要なプラットフォーム構築の契機となりうるものである。

 

本研究事業は、トヨタ財団によるアジアにおける非営利セクターのプラットフォーム構築の取り組みと連動し、社会イノベーションを生み出すための生態系(エコシステム)について、地域間の連携の可能性について検討し、行政・企業・非営利組織のそれぞれがどのような戦略を取ることが、加速度的な社会イノベーションの進展に寄与するか、アジア5カ国(日本・中国・韓国・タイ・シンガポール)のケーススタディと、地域間の連携の可能性についての検討を実施するものである。

 

この研究事業によって、国際会議によって形成されたネットワークに対して、アジアを俯瞰的する視座と、各国での先進的な事例や社会制度についてのインプットを提供することにより、各国のセクターが個別にその部分最適を追求するのではなく、地域としての全体最適を見据えて、社会的インパクトを最大化する戦略立案に寄与する基礎調査となることが、本調査の目的である。

[1] Office of Social Innovation and Civic Participation https://www.whitehouse.gov/administration/eop/sicp

[2] European Commission, “Social Innovation”
http://ec.europa.eu/social/main.jsp?catId=1022

[3]「社会イノベーション事例集2008」
http://www.esri.go.jp/jp/workshop/080313/080313_jirei.html